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認知症の脳はエネルギー不足|人生100年時代のアルツハイマー予防策

認知症の脳はエネルギー不足|人生100年時代のアルツハイマー予防策

アルツハイマー病の脳は2型糖尿病と似た病態

2018年に第114回 日本精神神経学会学術総会に参加した時に「脳リキッドバイオプシー(脳由来エクソーム解析)による神経疾患の予防・診断・治療」という演題で「アルツハイマー病の脳では、2型糖尿病と同じく、エネルギーが枯渇している」ということを学びました。

この説では、Kapogiannis先生の文献(2014)が引用されていました。Kapogiannis先生のこの件に関する関連するレビュー論文(2016)があったので読み解いてみました。

リキッドバイオプシーとは、血液などの体液サンプルを使って診断や治療効果予測を行う技術。

日経デジタルヘルス

インスリンの働き

インスリン

インスリンは、血糖値が上がると膵臓から分泌されるホルモンで、インスリン受容体に結合することで、細胞(筋肉・脂肪細胞)への糖の取り込みを増やす働きがあります。

脳のインスリン量は、加齢に伴い減少します。

脳のインスリン受容体

脳のある部分(血液脳関門)のインスリン受容体は、高インスリン血症や加齢によって減少します。(高インスリン血症は、名前の通り、血液中のインスリン量が多いことです。)

脳のグルコーストランスポーター(GULT)

糖(グルコース)はグルコーストランスポーター(GLUT)を介して細胞に取り込まれますが、身体の場所によって微妙にタイプが違います。

脳では、GLUT1、GLUT3、GLUT4が重要です。GLUT4はインスリンが無いと働きませんが、GLUT1と3はインスリンがなくても働きます。

GLUT1はほぼ全ての細胞にあり、GLUT4は骨格筋と脂肪細胞にありますが、脳ではGLUT3が主に働いています。

GLUT3は、血液中の糖が少ない時でも、絶えず動き続け、脳の細胞に糖を供給しています。

インスリン抵抗性

2型糖尿病では、インスリンの働きによって、細胞内に糖を取り込む能力が低下しています。

そのため、通常の血糖値を維持するために、より多くのインスリンが必要になります。

インスリンが血液中に多い状態が続くと、)インスリン受容体の形が変わり、下記の3つの現象が起こると考えられています。

  1. インスリンがインスリン受容体に結合しにくくなる。
  2. インスリンがインスリン受容体に結合しても、その後のシグナルが弱くなる(阻害される)。
  3. 受容体が分解される。

インスリン抵抗性の指標

様々な測定方法がありますが、簡便な方法の一つがHOMA-IRという方法で、インスリン値と血糖値から算出されます(総医研クリニック)。

計算式)HOMA-IR = 空腹時のインスリン値 x 空腹時血糖値/係数

同じ血糖値でも、インスリン抵抗性ではインスリンが効きにくいので、インスリン値が高くなります。

ここまでのまとめ

脳では、インスリンがなくても働くGLUT3が主に働いているけれど、GLUT4もある。

年齢を重ねると、インスリン量が減り、インスリン受容体も減る。

インスリンの働きが低下すると、通常の血糖値を維持するためにより多くのインスリンが必要になる。

血液中にインスリンが多い状態が続くと、インスリン受容体の形が変わり、結果的に、糖を細胞内に取り込む能力が低下する(=血糖値が高くなりやすくなる)。

筋肉のインスリン抵抗性

インスリン抵抗性では、筋肉への糖の取り込みが減り、筋肉の栄養源であるグリコーゲンの産生が減ります。

この原因としては、遊離脂肪酸が多いことで、糖を細胞に運び入れるためのGLUT4が作られなくためと考えられています。

遊離脂肪酸とは、脂肪の分解によって生じる脂肪酸。生体内でエステルなどになっていない脂肪酸。血漿アルブミンと結合し、肝臓に運ばれてエネルギー源となる。飢餓状態や糖尿病ではふつう濃度が上昇する。

デジタル大辞泉

肝臓のインスリン抵抗性

肝臓の主な働きの一つは、グリコーゲンを作り、蓄えておくことで、糖をすぐに使える状態にしておくことです。

食べ物を食べた後、肝臓から糖が分解され、脳やたの臓器に行き渡りますが、インスリン抵抗性の状態だと、肝臓から放出される糖の量が増えます。

肝臓の脂肪細胞はインターロイキン6を分泌しますが、インターロイキン6の量が多い状態が続くと、インスリンの量が多い場合と同じく、インスリン受容体の形が変わります。

アルツハイマー病では、インターロイキン6がアミロイドβ(ベータ)を蓄積させることがわかっています。

アルツハイマー病の病理学的特徴の一つである老人斑の主要構成成分は、アミロイドβタンパク質(Aβ)と呼ばれる40アミノ酸程度のペプチドである。

脳科学辞典

脳のインスリン抵抗性

膵臓で作られたインスリンは、うまいこと脳に運ばれ、働きます。さらに、脳でもインスリンを作っています(海馬、前頭葉など)。

いくつかの遺伝子に関して、遺伝子変異があることが、脳のインスリン抵抗性と関係があることがわかっています(Fat Mass and Obesity-Associated Protein; FTO, Melanocortin-4 Receptor; MC4R)。

FTOの変異はアルツハイマー病と認知症のリスクを高め、MC4Rの変異は脳のインスリン抵抗性を低下させます。

ヒトを含む各種の動植物では、発がん物質や変異原物質にさらされると細胞中で、遺伝子DNAに高頻度の異常(DNA塩基の欠失や置換等)が生じます。これらの異常により、遺伝子の機能が低下したり、または失われたりすることを遺伝子変異といいます。

ヤクルト中央研究所

アルツハイマー病でのインスリン抵抗性と酸化ストレス

インスリン抵抗性は、アルツハイマー病の病態の過程の一つである「酸化ストレス」を促進させます。

脳は酸素を多く消費するので、他の臓器よりも酸化ストレスに弱いです。

そして、酸化ストレスは、アミロイドβ(ベータ)を増やすきっかけになることが多くの研究から明らかになっています。

生体内において一部の酸素は、多くの物質と反応しやすい活性酸素種(Reactive Oxygen Species, ROS)に変化する。この活性酸素種は細胞の核酸、タンパク質、糖質、脂質などを酸化するとき傷害的に作用する。その結果、細胞の構造と機能に変化が生じ、病気を引き起こしやすくなったり、老化を早めたりすると考えられている。

脳科学辞典

ニューロンは、インスリン抵抗性が高く、インスリンが正常に機能しないときに、特に酸化ストレスに弱くなり、酸化ストレスがさらにインスリン抵抗性を高めます。

メタボリックシンドロームや、肥満によっても酸化ストレスが発生しますが、この酸化ストレスを軽減する物質についても研究が進んでいます。

例えば、ビタミンC、E、エストロゲン、スタチン、魚油、レスベラトロール(ポリフェノールの1種)は、アルツハイマー病のリスクを幾分か減らすことがわかっています。

同様に、カロリー制限やエクササイズ(運動)は、酸化に対応するシステムを動員し、アルツハイマー病のリスクを低下させることがわかっています。

しかし、上記の方法によるアルツハイマー病のリスク低下効果は、動物実験や、疫学研究であり、臨床試験で効果が確認できているわけではありません。

インスリン抵抗性を高めないために

本記事では、難しい言葉を使ってインスリン抵抗性について書きました。しかし、ヤクルト中央研究所のページでは、その主たる原因を”内臓脂肪型肥満”と簡潔にまとめています。

一般的に、内蔵型肥満を遠ざけるには、日頃から運動と食事の習慣に気を配ることが重要です。

内臓脂肪を低下に関する記事も書いているので、もし宜しければご覧ください。

関連記事:【ダイエット】プーアルを12-20週間飲んで体重1kg低下・体脂肪減少・脂質プロファイル改善

引用

日経デジタルヘルス. (2016). リキッドバイオプシーとは. デジタルヘルス用語.

総医研クリニック. (n.d.). 糖代謝・インスリン抵抗性. 代謝・内分泌領域. 臨床試験事業.

脳科学辞典. (2014). アミロイドβタンパク質.

脳科学辞典. (2015). 酸化ストレス.

ヤクルト中央研究所. (n.d.). インスリン抵抗性. 健康用語の基礎知識.

ヤクルト中央研究所. (n.d.). 遺伝子変異. 健康用語の基礎知識.

Kapogiannis, D., Boxer, A., Schwartz, J. B., Abner, E. L., Biragyn, A., Masharani, U., Frassetto, L., Petersen, R. C., Miller, B. L., … Goetzl, E. J. (2014). Dysfunctionally phosphorylated type 1 insulin receptor substrate in neural-derived blood exosomes of preclinical Alzheimer’s disease. FASEB journal : official publication of the Federation of American Societies for Experimental Biology, 29(2), 589-96.

Diehl, T., Mullins, R., & Kapogiannis, D. (2016). Insulin resistance in Alzheimer’s disease. Translational research : the journal of laboratory and clinical medicine, 183, 26-40.